『セッション』
ジャズドラムを学ぼうと名門音楽学校に入った青年と、彼にすさまじいスパルタ的指導を行う教師の繰り広げるドラマ。
音楽映画というと、やはり少しずれてしまう。古めかしい言い方だが、一種の芸道物といってもよいのか。日本人は、この手のものは基本的に好きなはずだが、私も例外ではなく、けっこう気に入った映画になった。
名門音楽学院に入学したニーマン(マイルズ・テラー)は、ひょんなことからカリスマ教師フレッチャー(J・K・シモンズ)に見込まれて彼のジャズバンドの一員に抜擢される。
そこで待っていたのは、時に暴力をも辞さない、サディスティックまでのシゴキだった。完璧な音楽を目指すフレッチャーの指導はアメとムチを使い分けながら、次第に狂気とも思えるほどエスカレートしていく。ニーマンはとりつかれたように必死に食らいついていくが……。
傲慢でエゴイスティック、自分の求める音楽のためには手段を選ばない鬼教授と、這い上がるための野心に次第に、自分を見失い妄執にとりつかれていくニーマン。
映画は、異様な緊張感でまるでスリラー映画のように進んで行く。
そして、フレッチャーの狡猾な罠にかかったニーマンは、全てを賭けて思わぬ行動に出る。ニーマンがフレッチャーの指示を無視して、ドラムを叩き続けるシーンは、果たし合い、斬り合いのような迫力がある。
情熱も努力も信頼も絆も役に立たない。善き人であるより、非人間的であることによってしか、たどり着かない場所がある。だからこそ、何もかも打ち捨てても人は芸に魅入られていく。その結末はなんとも皮肉なものだが、芸とか芸術の至福の時は、こんな形で奇跡のように現れるというのは真実なのだろう。
フレッチャー役のシモンズは、起伏の激しい難役を怪演。ニーマン役のマイルズ・テラーも熱演で、まずは見応えのある映画だ。
原題は「WHIPLASH」。鞭打つという意味があるようだ。
《監督》デイミアン・チャゼル 2014年公開
追記
私は音楽に無縁で、ジャズに全く疎いので、この映画を音楽的にどうこうという能力も資格もない。でも、だから、この映画がわからないというわけではないだろうと思う。私としては、自由に映画を楽しむだけである。
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