寝っ転がりながら気軽に観ることができそうな映画だな、という理由でTUTAYAでレンタル。多部未華子のコメディアンヌぶりに納得しながら、楽しく観たのだが、観終わった後は倍賞美津子の印象に隠れてしまった。私より一世代は上の、この皺だらけの老女優がなんともカッコいい。
倍賞美津子というと、倍賞千恵子の妹とか、アントニオ猪木の元妻とかいう情報が先にきて、これまで出ている出演作品がすぐに思い浮かばない。ネットで出演作品の一覧を見ると、結構観ている作品もあるのだが、私にとっては、これまで特段気にしたことのない女優さんだったのだろう。
女優、特に主役を演じるような美人女優が、年とともにどのような居場所を求めるのか、なかなか興味深い。本拠地が舞台、映画、テレビ等によってもちろん違うだろうが、それはまたその女優の生き方に関わるのかもしれない。話題の「やすらぎの郷」を観ていて、老いてなお、あの美しさを保っている八千草薫に驚嘆したが、この映画の倍賞美津子には、別の意味で目を奪われた。
彼女は、老いを隠さない。昔より頰もこけ、顔はシワだらけだ。かつての都会的な垢抜けた雰囲気、豊満な肢体を思いおこさせるものはない。元気で、身体はシャキシャキしているが、動きには年相応の心許なさも見える。ありのままの姿をスクリーンにさらけ出している感じがして、なんとも潔い、というか、カッコいい、というか。
映画は73歳のカツ(倍賞美津子)が、二十歳に若返って(多部未華子)やり残したことを謳歌するというストーリー。男女が入れ替わるとか、生まれ変わるとか、幽霊になって出てくるとか、この手のシチュエーションものは硬軟おりまぜて有象無象にあるが、この映画は昭和の匂いがするところが狙いどころか。
多部未華子が歌う「悲しくてやりきれない」は、私にはど真ん中のストライクで、聞いていてホロっとしたが、そう考えてみるとこの映画はどの年代をターゲットに作られているのだろうかと疑問になってくる。再び老齢に戻った倍賞美津子が、若返った時に思いを寄せた要潤を見つめる遠い眼差しは、また私たちのものだからである。
若い世代は、この映画、どんな風にみるのだろうか。
「あやしい彼女」 監督 水田伸生 2016年公開
※観客の立場からすれば、無責任に品評するだけだから、女優さんには迷惑なことだろうが、あれやこれやかしましいのも老年の愉しみの一つなので仕方がない。最近では、テレビドラマ「みをつくし料理帖」の安田成美の美しさや、「貴族探偵」の中山美穂の変容(?)には少し驚いている。
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