主演の清原果那は十六歳だそうだ。だが、堂々たる主演ぶりである。このまだ少女といってよい女優から、目を離せない。
「透明なゆりかご」は、産婦人科の過酷な現実を捉えながら、命の価値や意味、親子や夫婦の絆、子育てと生活の現実、医師や看護師の倫理等を正面から描いている。毎回取り上げる内容も、妊娠中絶、出産の危険性、DVや性虐待、若年の妊娠・出産、産婦人科の危機などリアルでたっぷりとした重みがある。
出演俳優の好演もあって、毎週見応えのあるドラマになっている。
主人公は、看護科に通う高校生、青田アオイ。町の小さな産婦人科医院で見習い看護師としてアルバイトをしている。ADHDの障害があり、いじめられたり、母と折り合いが悪かった過去を持つ。自分は人の気持ちがわからない、と思っている。
先日放映された第9話では、性暴力がテーマになる。
それは一本の電話から始まった。「小学生の娘が性被害に遭ったようだ」との訴えを聞き、榊(原田美枝子)はじめ産婦人科の面々は受け入れ態勢を整える。由比(瀬戸康史)は男性である自分が応対しない方が良いと考え、旧知の婦人科医・長谷川(原田夏希)を呼び寄せる。やがて母親(占部房子)に付き添われ現れた女の子を見て、アオイ(清原果耶)は言葉を失う。それはアオイが図書館で知り合った友達、亜美(根本真陽)だった…。 NHK 「透明なゆりかご」HPより
亜美はショックを受けて、声も出ない。水も飲めない。医師も看護師も細心の注意を払って対応するが、亜美は心を開かない。
もちろん現実にはある事例だが、テレビドラマとしては思い切った内容だ。被害者は十歳。いくら、演技といってもなかなか理解できないこともあろう。テレビの前に座って見ている方もドラマとはわかっていてもやはり生々しい。検査のために女性医師長谷川が自ら分娩台に乗って、亜美に手本を示す場面は、大人が見ていてもドキッとする。
偶然、亜美と顔を合わしたアオイは、知り合いだからといって関わってはいけない、という禁を破って、亜美から真実を聞き出すのだが…。結末はあまりに過酷だ。
清原果那は、感受性の強い繊細な演技をする。特にその表情。額にかすかなしわを寄せる。唇を緩く結ぶ。大きな眼を見開いたままどうしたらよいかわからなくて身を硬くする。
絶えず、どこか不安をまといながら、それでも懸命に生きる健気さが見るものの胸を打つ。熱演、というのともちょっと違う。あの町の、あの医院に本当にいるような実在感のある演技だ。
瀬戸康史は、軽い印象があったが、誠実で情熱をうちに秘めた産婦人科医を好演している。水川あさみ、原田美枝子も脇をしっかりと固めている。
歳を取ってくると、ついつい刺激の強いものや重苦しいものを避けたくなって、ドラマでも、軽いタッチのものや何も考えずに観られるものを選んでしまうことが多い。特にこの頃は、最初は意気込んで観ているのだが、ちょっとでも面白くなくなると、やめてしまうので、最終回まで見続けるドラマはけっこう少ない。年をとると惰性や習慣よりも、根気や体力のなさの方が優先するものらしい。
私のような視聴者をテレビの前に座らせるのは、脚本や演出の力はもちろんあるが、やはり、この人なら観たいという俳優の力も大きいのではないかと思う。
来週は最終回だが、私は最後まで清原果那のアオイを観たいと思っている。
後記
▶︎原作は沖田×華のコミック「産婦人科医院看護師見習い日記 透明なゆりかご」。
私は、コミックに疎くなっているので、講談社漫画賞の受賞作であることを知らなかった。
実は、今日第1巻を購入。これもなかなか面白い。最近はコミックのドラマ化、映画化が多いが、この作品はまずは大成功だろう。
▶︎ネットで当たって見ると、原作者の沖田×華さんという人も漫画家になるまで、けっこう波瀾万丈でユニークな人のようだ。コミックは7巻まで出ているらしいので、明日にでもまた本屋に行ってみようと思う。
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