ダメダメ男の更生劇。アメリカ映画ではありがちだが、日本映画ではそう思いつかない。まったく知らない俳優、知らない監督、予備知識なく、なんとなく匂いに誘われるように見始めた。
元プロ野球選手。戦力外通告から8年。借金。不倫。離婚。子どもの養育費。
ふとしたことから、競輪学校に入学。若者に混じっての四十男の過酷な訓練。教官の容赦ない罵声。若者たちの蔑み。いじめ。
ありがちなシチュエーション、ありがちなストーリー。
だが、おもしろい!ペダルを漕ぐ中年男の汗も涙も怒りも後悔もやるせなさも、教官の「もがけ」「もがけ」の怒声と共に、まさに「ガチ」に伝わってくる。
この映画、元は西日本放送制作のドラマで、その再編集版だとか。その割には、競輪シーンの迫力など、なかなかのもので、強烈なリアリティがある。
主人公の濱島(安部賢一)。この俳優、見たことあるような気がするが。ネットで調べると、野球も競輪を目指した経験もあるらしい。
これまで世間の荒波を感じてこなかった野球バカの中年男。なんとかしなくちゃいけないと思いながら、何もかもうまくいかない日々。一握りのプライドと自分を信じ切れぬ不安。傲慢と小心。
人生長いから、どんなに成功した男でも、波風たてずに平々凡々に暮らしてきたように見える男でも、男であれば、短いか、長いかの差はあれ、誰しもが必ず、「ダメダメ」の時期を一度は経験するものだ。何をやっても空回りして、自分が惨めで惨めで仕方がないと感じる時。
不器用なダメダメ男を、安部は必死で演じている。
ストーリーも、そうお手軽ではなくて、晴れて競輪選手になったあとも、濱島のダメダメは相変わらず。喉元過ぎれば、というわけで、競輪への情熱も薄れがち。再び、自堕落な生活、尊大で傲慢な態度に逆戻り(そうだ、そんなに簡単に、ダメダメは変わらない)。
だが、同期のトップ選手久松(福山翔大)には、ライバル視して無理なレースを仕掛け、再起が危ぶまれる怪我を負わせる。
このライバル久松も、家庭でのDVから逃れるために、競輪を目指したという背景がある。このあたりもありがちだが、細部は細かい。
同じ福岡の出身ということで、声を掛ける濱島に、久松が、名前なんでしたっけ、と真顔で答えるシーンや、地元のパン(多分、小倉の人には有名なのだろう)を迷惑そうに受け取るあたりは面白い伏線になっている。
モヤモヤとした気持ちのままに、久松の入院先を見舞った濱島は、再起を賭ける久松の必死のリハビリに衝撃を受ける。
「わかったー」と狂ったように歓喜の声を上げて、街を走り抜ける安部の表情がなんとも言えずいい。
最後は、因縁の相手が全て揃ってのレースシーン。主役は、「競輪」。ペダルを踏む音。バンクの傾斜。身体と身体がぶつかり合う迫力。
横一線のゴール。結果は、4位(これも、絶妙!)。
晴れやかな顔でリンクを回る浜崎に、息子と母親が観客席から声援を送る。
ダメダメ男のなんとも遠回りな復活。
やっぱり、拍手を送っちゃうな、この映画。
後記:
・ 日本国内に居住し高卒(見込みも含む)以上の満17歳以上であれば、基本的に誰でも競輪学校の受験が可能。うーん、すばらしい。
・教官役の俳優さんは、誰なのかはっきりしなかった。印象に残る演技だったが。